「ニュースです。アイドルグループ欅坂46がハロウィンライブで着た衣装がナチスの制服と酷似しているとインターネット上などで批判を集めています」
朝のニュースで、私たち欅坂46の衣装問題について触れていた。テレビ一面に映し出されているのは、問題の衣装を身につけた笑顔の私と莉奈とのツーショットだった。
いくつか抜粋された英文記事の紹介の後に、かつてナチスに迫害された人種団体の会長からこのような指摘が入った。
「10代の若者がナチスを連想させる衣装を着てステージで踊っているのを見ることは、ナチス大量虐殺の犠牲者に多大な苦痛を引き起こす」
早い話が、私たち欅坂46は世界的に炎上してしまったのだ。
私たちが身につけた軍服衣装は、ドイツにおけるダークサイドストーリーの象徴であった。
ドイツにおいては非常にデリケートな問題であり、聞いたところによるとドイツ本場では“負の世界遺産”であるホロコーストの存在を否定するような発言をしただけで逮捕されてしまう法律もあるらしかった。
迫害された人達はユダヤ人に生まれたという理由だけで、虫けら同然の扱いをされていたという。ガス室に閉じ込められた数百のユダヤ人を全員抹殺し、死体の山を慈悲もなく焼却炉に投げ入れる。煙突からは赤い煙が絶えずに立ち上っていたそうだ。
信じられないことに双子は実験台に出され、人でなしの実験をされたという話まである。
「地獄」なんて生易しい言葉では片付け難い、まさに「煉獄」そのものの血生臭い歴史がドイツにはあった。
島の国である日本にとってはあまり馴染みの無い問題が、世界では常識であった。それを私たち欅坂46は知らず識らずに作り上げ、エンターテイメントのつもりで着ていたのだ。
ナチス衣装問題炎上事件は、欅坂46が所属するソニーミュージックが謝罪したことにより事なきを得た。それから、ナチス風衣装はハロウィン限りの幻の衣装となった。
私たちには休暇という名の謹慎期間が与えられた。今日からしばらくの間のスケジュールが白紙になった。空白のカレンダーを見て、焦燥感を覚えてしまう自分は生粋の仕事人間なのだなと安心を覚える。
スタッフ達は私たちに構ってる時間などないとばかりに、消火活動に勤しんでいた。
(これを機に軍隊路線やめればいいけど……)
なんて口に出して言ったら一部のメンバーからは賛同してくれても、多勢からは反発されそうである。私は平手に対して好きなのか、はたまた憎んでいるのか。かつて経験したことのない情が体を駆け巡り、動揺する日々が続いた。平手に向ける嫉妬の炎が紅から青へと、そして黝さを帯びていく。私の渇きはきっと潤う日なんて来ない。平手がセンターに立ち続ける限りは–––––。
軍隊路線から梶を切るには、私がセンターになる他ない。