プロローグ––––from Imaizumi

 朝日が部屋を照らしてきた。私はとっくに起きている、というより、ちゃんと眠れなかった。まだ胸がどうしようもなく苦しい––––。

「はぁ……」

 どれぐらいため息を吐いても、胸の痛みからは解放されない。いくら他のことを考えても平手の顔が浮かんでは、止めようのない涙があふれだす。昨日の記憶がいやというほど明瞭めいりょうよみがえる。

「梨加ちゃんってなーんと、平手ちゃんと付き合ってるんだって!」

 目が覚めた時、昨日のは夢だと思った。スマフォの電源を入れると、LINEの通知バッジが100以上もののメッセージが来ていることを知らせていた。
 平手のアカウントをタップして現れたプロフィール画像は、アクセサリーの写真らしくお洒落な感じだった。タップして更に拡大させると、二つのネックレスがあった。一つは、見慣れていたタツノオトシゴ。そしてもう一つは、サメだった。二つの生き物が恋人に寄り添うようにして眠っている––––。
 やはり昨日起きたことは現実だったんだ。私のかすかな期待はつかの間の夢に終わった。

(てっこのネックレスって、お揃いだったのかぁ……)

 通知は、欅坂46のメンバー専用のグループトークのものだった。開きたくない。開かなくとも内容は想像つく。きっと祝福メッセージのオンパレードなのだろう。それも、平手と渡辺のカップル誕生のね。

「はぁっ……」

 傷心で息が詰まりそうなのを吐き出すように、強くため息を吐いてスマホを放り投げた。

(馬鹿でしょ、私って。仕事仲間に、中学生の女の子になに恋してんだか。こんなアイドルいないって。ほんと笑っちゃう)

 自嘲気味に笑いながらも、それでも自分を選ばなかった事実にえられず、またため息を吐く。

「はぁぁ……っ……」

 今度は嗚咽おえつも一緒に漏れた。

どうして。
どうして、渡辺なの?
私じゃなくて、渡辺なの?

 考えたくなくても、平手と渡辺との情事が勝手に思い描く。
 あの平手が、渡辺の体を貫いたわけだよね。平手は初めてだろうから、渡辺がリードしたんだろうな。

 全裸で向かい合っている平手と渡辺。
 平手の体をまさぐる渡辺。
 堪えず嬌声を漏らす平手。
 渡辺が平手を抱きしめながら、こちらを見つめている。

 触らないで。平手の身体に触れないで。

 一番先に平手の魅力に気付いたのは、この私なのに!

 

ジリリリリリリ!

 

 アラームの音を聴いて、私は現実に戻った。

(はぁ、仕事に行かなきゃ)

重い足取りで風呂に向かった。

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