最年少と最年長

 メンバーたちに私を含む5名の〝体の変化〟について伝えられた。これを機に私たち5人と、そうじゃないメンバーとの間に微妙な距離感ができてしまった。
 こればかりは考えても仕方ない、と開き直った。私たちには立ち向かえねばならない課題がある。それはデビューシングルだ。
 私は今回、センターに選ばれた。センターの自覚を持っていかなければならない。今日も記念すべきデビューシングルを迎えるためにレッスンで皆を引率する。

 休憩の時のことだった。

「あっ…… 」

 声がした方を見ると、書類をこぼし、慌ただしく集める姿が見えた。
 少し茶色くカラーリングされた長い髪がふわりと両肩にかかっていて、全体的にむっちりした女性らしい体つき。大きな瞳。口紅を塗ったような色っぽい唇。むきたまごのようなしっとりとした肌にほんのりピンク色に染めた頬。

 彼女は渡辺梨加。欅坂46の最年長メンバーである。お姉ちゃん……と思いきや、メンバー合流の時にキャリーバッグを駅に忘れて遅刻してくるわ、バッグをココアまみれにするわ、極めつけには就活50社も落ちたという伝説を持つ。危なっかしいお姉ちゃんだ。
 床に散らばった書類を集め終わったと思うと、私のとこに駆け寄ってきた。

「これ……」

「梨加ちゃん、お疲れさまです」

「ん〜」

「……なんでしょう?」

「番組……」

「番組……? あっ、『欅って、書けない?』の番組アンケートですか?」

 そう聞くと、彼女はこくっと首を縦に振った。これこそ就活50社に落ちた一番の要因であろう、所謂コミュ障というやつで彼女と会話するのに少し苦労したりする。でも、どこか憎めなかったりもした。容姿は偉大だ、と思った。
 彼女はポンコツでありながら容姿は一流で欅坂46トップクラスのビジュアルメンバーである。少し前まで一般人だったというのが恐ろしいぐらいだ。
 現状では乃木坂先輩の白石麻衣さんのような立ち位置になっていると思う。

 メンバーたちが私たちを避ける中、唯一彼女だけが距離を取ることもなく、以前と変わらない距離感で接してくれていた。最年長と最年少という対極の関係ということもあってか、私はいつしか彼女に憧れていた。

 視線を斜め下に向けて唇を噛みながらもじもじする。それが彼女の癖。「もう大丈夫ですよ」と返すと、踵を返すものの何もないところで転けそうになり、彼女が自分の位置につくまでハラハラしながら見届けた。
 ほっとけないお姉ちゃんだ。

 レッスンが終わり、一旦解散という形になったが、梨加ちゃんはというと振り付けがクリアできなかったため、居残りメンバーの一人となった。
 梨加ちゃんとレッスンしたかった私は、センターという立場上の責任ということを口実に一緒に居残ろうとしたが、「中学生」という理由で帰りを促された。こういう時は本当に自分の若さを呪う。

 早く、大人に、なりたい。

 梨加ちゃんは仲が良いメンバーと居残ってレッスンすることになった。後ろ髪を引かれながらも梨加ちゃんの姿を確認すると、彼女は私と話すときと違って笑ったりはしゃいでいた。仲が良いメンバーに軽くジェラシーを覚えつつも、レッスン場を後にした。その仲が良いメンバーは志田愛佳だった。

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