ついにこの日を迎えた。私たちのデビューシングル「サイレントマジョリティー」初披露の時が。
ステージに向かう道中、平手がヘタレモード発揮して私に甘えてきた。
「無理、どうしよう」
まだ14歳だし、その若さにしては酷な試練が与えられていると思う。
「行きたくない~」
「いくよ!」
「失敗したらどうしよう」
「大丈夫!」
平手の手を引きながらお姉さんっぷりを見せる。周りのスタッフは戯れる光景が微笑ましいのか、顔をほころばせている。
外面ではやれやれな表情を装っているけど、内心は嬉しかった。平手が私に頼ってることが何よりも嬉しかった。
募る緊張と不安を和らげようと、おどけてキスをかます。すると、平手は急に真顔になり軽くビンタしてきた。
ーーぱちん。
「ぶっ! ひどっ」
「はははっ」
(……ちょっぴり凹んだ)
本番数分前に及んでもまだ「無理無理」と弱音を吐く平手。さすがに私でも、この時ばかりは構ってやる余裕がなかった。許せ、平手。これはセンターの宿命でもあるのだ。センターという行を積んで立派なセンターになるのだ。有難く受け止めよ。
スクリーンには私たちの紹介PVが流れていた。合図として平手がとん、と私の手を叩いた。それと同時に私たちは地面を蹴って進発した。
ステージに上がると、目を刺激するほどの幾多ものの緑色のライトで満ちていた。ずっと、ずっとこの場所を求めていた。私の奥にたぎるパッションがふつふつと湧く。永く苦しかった実らぬ過去をそっと癒すように緑のペンライトから光合成する。
(気持ち、いい……)
スポットライトは私の呼吸の源だーー。
ステージの階段を降りて、観客と至近の場所に立つ。立ち込める観客の熱気がより一層、私を昂ぶらせる。
照明が落とされ、欅坂46メンバー一同のシルエットが形作られる。後ろのスクリーンには本日より本格的にアイドル界に参入する、新進気鋭のアイドル「欅坂46」の文字が浮かび上がる。
横目で平手を確認すると先ほどのヘタレ姿はどこへやら、まるでセンターの幽霊に憑依されたかのように別人と化していた。思わず、鳥肌が立つ。例の鋭い眼差しを前へ一直線に向けていた。触れたらピリッと感電しそうなくらい、膨大なパワーを感じさせている。
その雄々しい姿にトクン、と胸が締め付けられる。
嗚呼、平手。とてつもなく、愛おしい。
やはり、平手は天才だ。私の好敵手はこうでなくっちゃ。
彼女が選ばれたんじゃない、彼女しかいなかったのだ。
納得いくのも悔しかったけど、そんな平手ちゃんを見れるのは二番手、つまり私だけの特権でもあった。眩しい姿に恍惚としつつ、手を握りしめ胸に当てる。
さぁ、私の夢への第一歩が始まる。