今日の平手はなんだかいつもと違って、妙に浮きだっているようだ。気のせいかもしれないが、肌の調子がいいのか、ツヤツヤしてるように見えた。目の下のクマも緩和されている気がした。
菅井と尾関と私。例の5人のうち、3人が皆して平手を凝視していた。
「平手ちゃんさ、調子いいみたいだね」と、私はほおづえをつきながら言った。
「だね。 なんかいいことでもあったのかな」と、最近悩みごとが多いらしい菅井。
「いいエステとかいってるのかな。後で教えてもらお」と、最近美容に勤しんでるらしい尾関。
井戸端会議を始めた私たち3人の背後から織田がずいっと割り込んできたと思うと、たくましい顎にL字を作った手を当てて「はは~ん」と、探偵気取りのポーズをしている。
「さ~て~は~」
「なんだよ、意味わかんねーし」と、呆れ顔で織田を見て言う私。
「織田奈々、なにか企んでる?」と、にこやかに尋ねる菅井。
「なになに? コナンのモノマネ?」と、一緒に同じポーズを取る尾関。
織田は渾身のどや顔を浮かべて言った。
「あいつ……卒業したな」
菅井と尾関と私、3人とも顔を見合わせた後、織田に総ツッコミを入れた。
「平手ちゃん、まだ中学生だし」と、私は織田の顎をゲンコツで小突く。
「中学生卒業したの、葵でしょ」と、織田の肩に優しくツッコミを入れる菅井。
「頭、眠ってる?」と、織田の頭をつんつんする尾関。
「違う違う~」
織田はオネエっぽく手を振った後、白い歯をニカッと見せて言った。
「童貞卒業したな。間違いない!」
(は? 織田奈々のくせに、なに言ってんの)
「最低」と、ピシャリ言う私。
「いやいや……なにを言ってるの」と、苦笑いを浮かべている菅井。
「言っていいことと悪いことがあるよ……」と、渋い顔を浮かべている尾関。
「いや、まじで地元の時、童貞卒業したクラスメイトと様子が一緒だって!」
織田はくっきりとした二重まぶたをさらに深くして、キッパリと言った。
「相手だれだよ」と、私は織田に強めに問う。
「佑唯ちゃんとか?」と、菅井は首を傾げながら言う。
「えーでも、早くない? さすがにないと思う」と、尾関は顔を横に振りながら答える。
当の織田は「お前ら、中学生に負けてんな!」と、完全に私たちの話は耳に入ってないようだ。「お前も負けてんだろ!」と、尾関がいーだっと言わんばかりの顔で威嚇する。
「自分、真面目なんで。 30歳までドーテー貫くし。そんで魔法使うわ」
織田は自信満々に、片眉を上げながら薄い唇を吊り上げた。
私は織田の両頬を片手で掴んで「その濃い顔で三十路童貞とかウケる」と言うと、プルルルルとテーブルの上のスマホが鳴った。
画面をのぞいてみると、通知には葵からのラインが来ていることを知らせていた。スワイプすると次の画面が現れた。
「話したいことがあります」
本当、なんなの。最近、なんなの。愛佳妙に元気ないし、かと思ったら平手ピチピチだし。葵はずっと様子が変だし。だからこそ心配した。
「ごめん、ちょっとヤボ用!」
ほっとけない私は葵の元へ急いだ––––。