日が傾き出した。空が群青色へと染まってくる。路はだんだん暗くなる。珠理奈はますます足を早めた。ぱるちゃんの状態など伺いもせず、ただただ目的地へ少しでも早く着いて素敵な光景を見せてやりたい一心だった。
穴場へ着くと、そこは情緒あふれており周囲に邪魔されることもなく美しい眺めを独占できるのに絶好の場所だった。二人きりで花火を見るには最高と言わざるを得ない。そこで、ようやくぱるちゃんの顔を一瞥した。
色白い顔を火照らせて肩で息をして、息接ぐのに必死な様だった。ようやく我にかえった珠理奈は申し訳ないと思いつつも、不覚にもその姿が艶めかしいと思ったその瞬間、炸裂音にそれは掻き消された。
夜空一面に咲く花火は言葉に変えられないくらい綺麗だった。しかし、珠理奈の視線は花火ではなく、隣にいるぱるちゃんに注がれていた。花火に見惚れてるぱるちゃんに見惚れていた。
花火が弾ける度に照らされるぱるちゃんの笑顔があまりにも可愛くて綺麗で、気が付くと、珠理奈の手はぱるちゃんの手に重ねていた。ぱるちゃんの手はひんやりと冷たくて、それは心地良いものだった。ぱるちゃんはこれに返事するかのように珠理奈の顔を見て微笑んだ。
こういうのは「特別」というわけでもない。女同士なら尚更であって、こういったスキンシップは挨拶代わりみたいなもので日常茶飯事だし珍しくもなかった。
ぱるちゃんはそう思ってるだろう。でも珠理奈の場合は違った。
ぱるちゃん、私の想いに気付いて。
思わずはぁっとため息を漏らした。幸い、耳を聾する花火の炸裂音のお陰でぱるちゃんの耳には届いてなかったようで安心した。
フィナーレに備えてか段々大人しくなる花火。夜空は煙で満ちていた。火薬の匂いが僅かに漂った。
雰囲気に任せてる部分もあってか、私の想いはこれから噴き上がる花火のように情熱でじっとしていられない状態だった。
「ぱるちゃん…」
「ん?」
「私、ぱるちゃんのこと…」
途切れ途切れに言葉を押し出す。ヒュルルルルルル~ン…と聴こえた。心の奥にしまいこんでいた想いを、手を握っている者へ吐露した。
「好きだからっ!!!」
パァァァァーーーン……
告白と同時に、壮大な花火が次々と休まる暇なく弾けては夜空を明るく照らした。恐る恐る反応を伺ってみると、案の定ぱるちゃんの意識は盛大な花火に向けられているようだった。珠理奈は切なくもどこか安堵した。
花火大会に誘った理由は、私のぱるちゃんとの思い出の共有、そして想いを告げたかったから。浴衣姿を着せたのも、私が見たかったから。祭りへ行かず穴場にしたのも、ぱるちゃんを独り占めしたかったから。あわよくば、キスでもしようかと思ってた。
全て結局はぱるちゃんの為ではなく、自分の都合で動いてたかと思うとあまりにも子供じみていて、情けなくって自嘲した。忸怩たる思いだった。
告白は相手に伝わることもなく、失敗に終わった。