一歩前進の巻

 私たちがやすやすと出演していいでしょうか……?

 

 デビューシングル「サイレントマジョリティー」がオリコン週間シングルチャートで初登場一位の記録を飾った。さらには、女性歴代アーティスト最高の記録を更新する快挙となり、Mステへの出演も必然的な成り行きである。
 しかし、メディアに映っている私たちの笑顔とは裏腹に、裏では常に重苦しい空気に包まれていた。
 果たしてぺーぺーの私たちがやすやすとMステに出演していいのだろうか、と自問自答を繰り返すメンバーの姿はもはや当たり前の光景と化していた。

 欅坂46は全体的に大人しい。今時の若い子特有の意見をあまり言えない子の集まりでもあったが、同時に内には熱い想いを秘めている子の集まりでもあった。
 表面はクール、心はホットに––––。

 

 Mステ出演当日。これまでの収録とは違って生放送であり、やり直しが効かない一発勝負に我々は挑もうとしている。ゴールデンタイムにて、私たちの勇姿が初めて全国に放映される。
 緊張感はいつもに増して、ピリピリとした空気が漂う。皆、自分のことで精一杯のようで余裕がなかった。無理もない話である。そこは年長である私が率先して円陣を組み、鬨を上げる。

「謙虚! 優しさ! 絆! キラキラ輝け欅坂46!」

 

 テレビで日常の一部のように見てきたMステ。まさに今、私はそこに立っている。浴びせてくるスポットライトが倍以上に熱く感じた。背中に汗が流れているのがわかる。
 モニターを確認すると、隣の茜がぎゅっと目を瞑っている。緊張と不安で今にでも潰れそうな表情を浮かべていた。Mステの青色のスタジオに包まれている茜がまるで、海に放り込まれて急激に大人しくなっていく炎のように見えて、思わず抱きしめたい衝動に駆られる。
 以前、「欅って、書けない?」にてサイレントマジョリティーを披露したときのことを思い出す––––。

 

 私と茜が先陣に立つフォーメーションで、茜は振りを誤った。すぐに持ち直したものの、顔は分かりやすいぐらい自分に対する苛立ちと嫌悪感で満ちていた。
 収録後、涙目になっていた茜に「大丈夫?」と声を掛けると、生粋の負けず嫌いの彼女は強がって振り払った。それからというものの、自分に鞭打つようにレッスンに明け暮れた姿を遠くから見守ってきた。茜の頑張りを私は知っている。きっと、皆も知っている。
 茜、テニスと違って欅坂46は個人プレイじゃないよ。皆がいるよ。そして。

(大丈夫、私が隣にいるよ)

 

 進発の曲がかかる。闘志を漲らせている胸の前に拳を作る。

(私も、茜を頼りにしてるから)

 青色に負けるなんて、らしくないよ。茜の持ってした情熱でMステを茜色に染めちゃって!

 

 お父様、お母様。いつも家族団欒で見てたMステに私は今、立っています。隣の茜と、皆と21人22脚で一歩前進する勇姿を、どうか見守ってください––––!

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