はぁぁぁ~……!
ステージからはけた後、深いため息を吐いた。これまで吐いてきたため息とは違った、満足げなため息だった。
異常な興奮状態に陥って、コントロールが効かなくなるなんて初めてのことだった。今までテレビの向こうで輝いていたアイドルの方々ってこんな感覚で踊っていたのだろうか。改めて、AKB48さんや乃木坂さんの凄さを再認識した。
茜が汗を垂らしながら大きな笑顔をしてメンバーにしきりと労いの言葉を掛けている。
茜と私はシンメトリーの立ち位置で「サイレントマジョリティー」でも「手を繋いで帰ろうか」でも「キミガイナイ」でも、全ての曲において隣同士だった。特に「手を繋いで帰ろうか」では私と茜はカップル役を演じることになっていた。レッスン時は何とも思っていなかったのに例の謎のお茶混合事件のこともあってか、なんとなく気恥ずかしく感じてしまう。
「ゆっかー! お疲れ様!」と労いの言葉が私にも贈られて、ハッと気づいて彼女の方を見て返事する。
「茜さ……」
「あー! また言った! 茜って言ってよ」
「あ、茜……」
そう言うと、茜は嬉しそうに破顔した。
「今日は本当に、ありがとうございました」
茜に向かって深々とお辞儀をする。
「えっ、いや、なに。ちょっと、やめてよ~」
呆気にとられた茜はこそばゆく感じたのか両手で振って遠慮した。実際のところ、彼女にはどんなに感謝しても感謝しきれない気持ちでいっぱいだった。
例の謎のお茶混合事件でメンバーとの間に距離が出来てしまい、茜もきっと気を遣ったに違いない。それでも嫌な顔を一つも見せず、私の隣でいつも以上にチャーミングな姿を見せてくれた。
「ごめんなさい、やっぱ困るよね……」
不意に謝られたことを不思議に思ったのか数回瞬きをした後、首を傾げる茜。ポカリと開いた口が可愛いと思った。
「ほら、私、アレじゃん? なのに、私のシンメをやってくれて。『手を繋いで帰ろうか』でも嫌な顔一つも見せなかったし……」
ここまで言うと伝わったのか「なぁんだ」と表情を緩めた。
「なーに言ってんの、それこっちのセリフだからさ~。私、ダンス下手なのにさ。ゆっかーがフォローしてくれたし! それに……」
「それに?」
茜は私の顔をほんの数秒間じっと見つめた後、ニッと歯を見せて言った。
「ゆっかーだと、何故か警戒心を抱かないんだよね!」
どこからか茜を呼ぶ声がしたので「またねん!」と茜は笑顔を振りまいてその場を後にした。嬉しさで気持ちがいっぱいになった。それと同時に心の奥に何か引っかかるものを感じた。だんだん小さくなっていく茜の姿を見つめながら「そっかぁ~」とつぶやく。
警戒心を持たない、かぁ。
信頼されてるっていう認識でいいんだよね。
けど、“男”として見られてないってことよね。
いや、一応〝女〟なんだけどね。
あれ、女なのかな。
残念な気持ちが湧き上がったのが酷くおかしなことに思えて、思わず苦笑いを浮かべた。