しばらくは有明のワンマンライブの話など、近況を取りとめもなく話した。ひと息ついたところで、私はいよいよ切り出した。
「これ……」
イルカを見せた。引きちぎられたネックレスについていた、あのイルカだ。志田の笑顔が、ゆっくりと崩れていく。
想定内とはいえ、胸の奥に小さな緊張が走った。
「えっそれ……持ってたの? ばっか、最悪」
志田は溜息を吐くように言った。額に手を当て、それから髪を掻き上げた。
「ゴミだから、ぶちゃれよ」
田舎コンプレックスの彼女の口から、珍しく方言が洩れた。不機嫌さが滲んでいく。それでも私は退かない。
「これって、梨加ちゃんへのプレゼントだったんだね本当は」
志田の形のいい横顔に向けて訊ねる。詮索なんて私の趣味じゃない。まして他人に興味のない私にとっては、くだらない。
返答はない。私は、もう一段踏み込んだ。
「梨加ちゃんのこと好きだったんだね」
志田は観念したようにDSを閉じた。ソファに深く沈み、背もたれに腕を回したまま天井を仰いだ。
「欲しいって言われたから」
志田は天井を向いたまま言った。
「お揃いを買ったんだけど。私がイルカで、ぺーがサメ」
ゆっくり目を閉じ、言葉を継ぐ。
「でも、もう既に持ってた」
「笑えるでしょ?」と自虐めかしてきた。表情は相変わらず読めない。けれど夜景が映り込むほど大きな瞳が、どこかうら寂しい。
私は笑わなかった。
「楽屋の時、泣いてたじゃん? あれで失恋したのかと思った。……たぶん、私も一緒だったから」
ヘッドフォンを着けていた志田の姿が蘇る。あのとき私は、珍しく聞く気ないの?と思った。
あの違和感は、やはり当たっていた。
「ぺーに対しては、恋してたのか何なのか分かんない。でも、ぽてちに取られた瞬間、すんごいショック受けた」
夜景を映す志田の瞳が、ほんの一瞬だけ曇った。すぐに何事もなかったみたいに戻る。
「ぽてちか、ぺーか。……でも、ぺーはありえないと思ったから、ぽてちだなって察した」
志田は不意に、やわらいだ顔を見せた。瞳が綺麗だと、不覚にも思った。
「ずみこが、こばと間違えて私に告白するってゆー、マヌケやらかしたじゃん? あれでビンゴって思った」
志田はニッと、いたずら少年みたいに笑ってみせる。
私はどうにも、こいつの笑顔に弱かった。普段のクールさとの落差が、いちいち効く。
「でも、もういらない」
慰めの言葉を探した。けれど、口に出す前に引っ込んだ。
「本当にいらない」
そう言った志田の顔は吹っ切れたかのように晴れやかだった。
勝手に恋をして、気づけば失恋していた。人知れず忍ぶしかない身勝手な恋を、私たちはそれぞれ抱えていた。
互いの恋を知っているのは、私たちだけ。秘密が、またひとつ増えた。