こいつが立ち上がった。思わず肩が跳ねた。だが向かったのは、自動販売機だった。
ソファに置かれたDSの画面が、また目に入る。前に見たときより妙に見づらい。像が二重に重なって見える。3DCGになったらしい。どうやらポケモンの最新作を買ったのだろう。
カコンッ、と音が二度した。振り向かれる前に、私は慌てて視線を夜景へ逃がした。
目の前に、ひょっこりと缶コップが差し出された。「コーンポタージュ」の文字。受け取るとき、ふいに志田の指先が触れた。暖かくて、少しだけ粟立った。
志田はホットレモンの蓋を開けた。酸っぱい香りが、ほんの少し漂う。そのまま口に運んだ。
ありがとうを言いたくて志田へ向き直った、そのとき。こいつ、こいつは、見せつけるように私が打ったほうの頬をすりすりと撫でてきやがった。
(こいつ!)
やはり、こいつはこいつだった。私も負けじと自分の頭をさすった。あのモンスターボールを投げられた場所を、誇示するように。
「あはははっ!」
志田の溢れんばかりの笑いにつられて、こちらも笑みが綻ぶ。気まずさは、もうなかった。
肩の力が、やっと抜けた。正直、このまま続いたらどうしようかと思っていた。逃げなくてよかった。