一品目

 12月26日。欅坂46が結成されてから4ヶ月。仕事納しごとおさめの打ち上げが行われた。
 スタッフが予約をとってくれた居酒屋の個室に案内され、メンバー達がキャッキャッはしゃぎながら次々と席に着く。それぞれ仲良しな人とペアになったり集団を作ったりして、いくつかのグループに分かれた。消極的な私は皆が席に着いてから、空いてる席にそっと腰をおろした。

 以前からこういった交流会は苦手だった。4ヶ月経ってもなお、あまり打ち解けない自分が情けなくなり、参加したことを少し後悔し始めていた。
 私が最後に席に着いたのを確認したスタッフが立ち上がり、第一声をあげる。

「皆さ~ん! ここは我々大人がおごりますから、好きなものどうぞ!」

 育ち盛りの少女たちの眼が爛々らんらんと輝き始める。

「きゃ~!」

「太っ腹~!」

「ありがとうございます~!」

 メンバーたちの奇声に近い歓声があがった。はしでお皿をチンチンと鳴らす子もいた。
 次々とメニューを取り合うように注文し、待っている間はお決まりのガールズトークが始まった。

「ねぇねぇ~」

 守屋が乗り気になって仕切り始めた。

「ここだけの話ってことで……今まで彼氏いたことある人~!」

「言えないよぉ~」

「実は……いました!」

「予想通りすぎておもんな~い!」

 さすが恋愛の話になると秒速で盛り上がるところも、皆は今時の女の子だということを、この場合特によく思う。
 盛り上がっている中で、守屋が顎を上げて、ある箇所に視線を投げている。その視線の先には、ある女の子が隣の女の子と二人の世界になっているところであった。

「ねぇ、梨加ちゃん。参加してますー? 年長者さんでしょ」

 どうやら守屋は自分が話している時や盛り上がっている時に、聞いていない人や参加していない人がいたりすると気にくわないたちらしい。なるほど。クラスにはいる女グループの女王様タイプというわけか、と私は冷静に診断した。

 守屋茜もりやあかね。18歳。見た目通り、負けず嫌いな性格でこれまで根性論で生きてきたような熱血女子だ。何事にも熱くなれる性格は素敵だと思うが、少しウザったく感じるのも事実だった。

「梨加ちゃんは聞き役だよ~。ね、梨加ちゃん!」

 すかさず、織田がフォローを入れると、守屋は諦めたのか小さくため息を吐いたあと、何処どこかのグループに割り込んで盛り上がっている。守屋が見ていないのを確認した織田は、渡辺にウィンクを送った。なるほど。クラスのムードメーカー的な存在なわけか、と私は冷静に診断した。

 織田奈那おだなな。17歳。日本人離れした彫りの深い顔立ちをした美人ながらも飾らない性格で、加入当初までメイクの仕方を知らなかったらしい。すっぴんでもあまり変わらないタイプである。彼女の器の大きさから、皆に好かれている母ちゃん的な存在だ。

「織田奈那、なにかっこつけてんのー。ちょっと今の口説いてるみたいな感じだから」

 斎藤は笑いを我慢しているようで、口元を抑えながら織田に突っ込む。

「やだぁ、かっこつけてないから!」

「顔が男前だからすっごいオネエ感増すそれ」

 斎藤冬優花さいとうふゆか。17歳。彼女の得意分野であるダンスではリーダーシップを発揮しており、レッスンでもまとめ役となっていた。おまけに話も面白く、頼れる存在でもある。

 

 守屋茜と織田奈那と斎藤冬優花の3人が会話の中心だった。97、98年組の年中組が場を盛り上げ、年長組は控えめなのか頼りなさげで、年少組は消極的だった。
 かくいう私も、皆のペースにはついていけず、適当に相槌あいづちを打ちながら運ばれた飲み物を飲んでいた。

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