もっと甘えてほしい(◦・ω・◦)♡

 個別握手会の後、泊まるホテルのロビーで解散となり、自由行動に移ったメンバーたちはゲームセンターに集まっていた。
 アーケード格闘ゲーム機では、土生がゲーマーの腕前を見せており。エアホッケーでは、茜が気合い満点で次々とメンバーたちを打倒している。

 稼働している筐体きょうたいゲーム機はいずれも古めかしく、格闘ゲームはポリゴンが粗く、エアホッケーは空気が弱いのか茜が力一杯に打っている。
 未来的なようでどこか懐かしさを覚える電子音を聴いて不思議と、小さい頃に兄がカセットゲーム機でプレイしているのを横で見ているセピアな思い出が蘇った。

(友梨奈ちゃんはきっと、この“音”を知らないんだろうなあ……)

 きょろきょろと、あたりを見回す。
 いない。

「てち、いないね」

 一緒にいた菜々香が、私が思っていることを言い当ててきた。うん、と頷く。
 いつも周りが私の胸中を察して、頼まなくとも代わりにやってもらってきた私にとって、自ら進んで行動に移すのはなかなか難しいことだった。欅坂を応募した時だって、妹からの誘いがきっかけである。
 行動したい気持ちはあるのに、公園で仲間を見つけても輪に加われない園児のように、もじもじするばかり。そんな私を見兼ねた菜々香が、背中を押すように助言をかけてきた。

「ぺー、たまにはぺーの方から誘ってみたら?」

 そう、菜々香の言うとおり。
 友梨奈と付き合ってからは、全て彼女に任してきた。
 告白も、デートも、夜も。いつもアクションを起こすのは友梨奈からだった。
 年上なのにいつまでも受け身とは、なんとも情けない。ぽわんとしている私でも流石に自覚している。
 変わらなきゃ。

 スマートフォンを取り出して、LINE画面を開く。プロフィールが私とお揃いのネックレスを並べている画像に設定している恋人のアカウントをタップして、通話を開始する。
 私は文字で気持ちや感情を表すのが大の苦手で、連絡手段はいつも決まって通話だった。

「もしもし」

 菜々香はガッツポーズを作って「頑張れ」と、エールを送ってくれている。

「梨加ちゃん」

 まだ幼さが残る、愛おしい声を聞いて自然と頬が緩む。にやけた口を手で隠すも、声が漏れてしまった。

「んふっ」

「なんだよ」

「友梨奈ちゃん」

 今、スマートフォンの向こうで膨れ顔を作っているのだろうかと思うと、余計愛おしくなる。

「可愛い」

「な……なに? どうしたの、いきなり」

 どきまぎしつつも照れながら答える友梨奈が浮かんだ。

(やばい……萌え死ぬ!!)

 私の中の自分が年甲斐もなく「きゃあきゃあ」と女子高生のように騒いで喜んでいる。声を堪えるとどういうわけか、勝手にぴょんぴょんと飛び跳ねた。身体は正直だ。
 アオコをぶんぶん振り回したいくらい興奮していると、菜々香が必死にジェスチャーで合図してきたのに気づいた。
 友梨奈の可愛さに夢中で、すっかり本来の目的を忘れてしまっていた。毎度のことながら、菜々香という介護人がいないとポンコツになってしまう。
 そうだ、と本題を切り出す。

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