「Mステ、ちょっと怖いな~……」
いつもは自信ありげな茜が、いつになく弱気だった。
茜はドがつくほどの負けず嫌いで、筋金入りの体育会系だった。スポーツも、学力も、美容も、全てにおいて努力を惜しまない完璧主義者である。
そんな彼女の唯一の欠点がダンスだった。リズム感があまり備わっていないのだろう、どこか鈍臭く見えた。そこが可愛かったりするのだけど、そんなこと言ったら首絞められそうなので私の中での秘め事にしている。
茜の手の上にそっと手を重ねる。
「私、茜の隣にいますから」
シンメトリーの立ち位置という意味で答えたのだが、なんか告白じみているなと思った。勇ましかったり、と思ったら、しおらしい一面を見せたりと、色んな顔を見せる茜がチャーミングでならなかった。
「えへへ~私たち、ベストカップルだっちゃ!」
茜は挨拶のように腕を組んでくる。それもリップサービスだねと苦笑いしていると、不意に腕に柔い何かが当たる感触があった。見るまでもない。茜の胸だ。それも、なかなかの大きさの。
別に女同士の胸など、性的興奮の対象にならない。なのに、何故ドキドキしているんだろうか。今、ここで〝反応〟したら確実に距離を置かれてしまう。それだけは避けたかった私は、懸命に馬の乳房を思い出してなんとか堪える。馬乳酒の味を思い出したら一気に収まった。
(あ、危なかった……)
茜を一瞥すると、無邪気な屈託のない笑顔を私に向けている。その笑顔が今回ばかりは恨めしい。
「ちょっとは警戒心持ってよ……」
ため息混じりに呟く。
「なんか言ったー?」
「いや、なんでも……」
お父様、お母様。夢のアイドル活動は思った以上に難儀なものです––––
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