「理佐さんって。私のこと、嫌いですよね」
目の前の子は笑顔を浮かべて言った。どこか寂しそうな瞳で私を見つめて。
彼女は長濱ねる。けやき坂のメンバーの一人だ。彼女との出会いは4ヶ月前に遡る。
欅坂46が活動開始してから3ヶ月経った頃、冠番組「欅って、書けない?」にて事件は起きた。MCの澤部が渋い顔をしながら口を開く。
「重大発表が……」
ピカピカの新生活を迎えた初々しい少女たちの顔が曇りはじめた。スタジオが重い空気に包まれる中、土田が「まさか……俺がメンバー入り!?」と茶化しだす。 メンバー入り、というワードに胸騒ぎを覚えた。まさか、と思った。
メンバーの前に設置されたモニターがビデオに切り替わり、画面には「重大発表!」という文字が映り出された。メンバー誰もが息を飲んだ。私は無意識にも、当時まだ親しくなかった愛佳と手を握っていた。
“欅坂46に新メンバー加入!”
メンバーの悲鳴が上がる。私の頭の中は真っ白だった。当時の私は地味な子で序列もさほど高くなく、常に最後列にいた。
もしかして、私は何も残せないまま、アイドル人生を終えるんじゃないか––––
不安が頭をよぎる。
新メンバーは最終オーディションに現れなかった「空白の17番の子」だった。
紹介ビデオが流れると、「空白の17番の子」を見て絶望したメンバーもいたじゃなかろうか。私もその一人だった。
理由は至ってシンプルで、「空白の17番の子」のルックスは控えめに言ってもトップクラスだったからだ。
その証拠として紹介ビデオが長い尺を奪い、しかも一度は辞退した子の特例加入という優遇っぷりからわかる。ワッ、と泣き出す子もいた。
それから、「空白の17番の子」はスタジオに姿を現した。緑色の制服の私たちとは違い、茶色い制服を身にまとって。
「長濱ねるです」
紹介ビデオで見るより何倍も可愛くて、悔しいけどスタッフが特別扱いするのも頷ける容姿だった。その結果として収録が放送された日、多くのファンの心を鷲づかむことになった。
長濱ねる––––
1998年9月4日生まれ。17歳。長崎県出身。
157センチ。O型。
それ以来、ねるが懸命に挨拶してきても、私はあまりいい顔を見せることはできなかった。この子のせいで、葵とかが悲しんでいるとさえ思っていた。
ねるがじっと私の顔を見つめていることに気づき、回想を中断させた。
大人っぽい子が揃う中でひときわ目立つ童顔。優しい印象を与える垂れ目。親しみやすい笑顔。いわゆる、たぬき顔で男ウケする容姿はまさしく王道アイドルそのもの。これに付け加えて、乗り遅れてやってきたシンデレラストーリー。こりゃ、人気がでるわけだ。
「……嫌いかどうかはわかんない。でも、仲良くしたくない気分かな」
我ながら冷たいと思うが、どうしてか嘘は付けなかった。
「そっか」
ねるは寂しそうな表情を浮かべた。私は自分の胸が少し痛むのを感じ、その場を後にした。