小説家からの贈りもの

「じゃあ、お先にあったまってくるわ!」

部屋に着くなり、荷物を放り投げて一目散に風呂へ向かう織田。もしや、織田の言う「温まろうか」の意味がオトナ言葉ではなく、文字通りの意味だったのだろうか。欲情しきっている私に恐れをなして逃げたように見えて、私はひどく落胆した。

しかし、それでもめげなかった。というより、ここで素直に引き下がることすら困難なほど、切羽詰せっぱつまっていた。ならば––––。織田の入浴中に突撃しようか、と逡巡しゅんじゅんしはじめる。

なかなか決心がつかないでいる間に、風呂の戸が開く音がした。慌てて正座の姿勢をとる。
湯上がりの織田の姿、それは昼間の汗だく姿ほどの衝撃はないものの、どこかほっとするものを感じる。しっとりと潤った唇がなによりも艶かしい。あと、浴衣姿が似合っている。

「気持ちいいよ、どうぞ」

私は彼女を押し倒して「私は今すぐにでも気持ちいいことをしたい」と、大人な台詞をささやく––––勇気なんてなかった。拒否され続けたトラウマが邪魔する。
結局、言われる通りに、着替えを持ってずこずこと風呂へ向かうと、呼び止められた。振り返ると、織田は私に背を向けたまま言った。

「いつものパンツでよろしく」

織田は下着にこだわりがあり、私がいつものパンツを履くと欲情して抱いてきたのだった。

これは、本当にいよいよ、なのかもしれない。

 

 

ここの温泉は素晴らしい。湯は見た目は黄土色気味でにごっているようだが、あなどるなかれ。肌を若返らせ、むきたまごのようにすべすべにさせる神の湯だ。
どんなに高い化粧品などをもってしても温泉の威力には敵わない。これぞ、ザ・オーガニックだ。しかし、どうしても臭いが気になる。織田と1年ぶりの夜だ。ここが正念場でもあり、少しでもえられてしまっては困る。名残惜しくも、ボディソープでこするように洗い流した。

風呂から上がって身体を拭いている途中で、もし織田が布団の上で眠っていたらどうしようと一抹いちまつの不安がよぎった。祈るような気持ちで和室を確認すると、杞憂きゆうだったことが分かり、胸をなでおろす。彼女は椅子に座って、静かに本を読んでいた。
もう我慢の限界だった。織田日照り・・・・・が続いて爆発寸前の私は、本を読んでいる織田の前にまたがって座る。対面座位の格好で彼女に甘えた。

「だに」

「ん?」

心臓をけたたましく打ち鳴らしながらも、思い切って小声で囁く。

「したい」

織田は、らしくなく色っぽい笑みを浮かべた。

「しよっか」

胸がジンと熱くなり、すでに火照っている頰が上気していくのがわかる。
待ちわびたように、電気を消そうと立ち上がった時だった。

「どこいくの」

織田が離すまいと私を抱き寄せる。心臓がどくんと高鳴る。

「暗くしようと……」

「駄目」

即答だった。

「これ」

私の視界を遮るように、本が差し出された。あまりにも近すぎて文字が認識できなかったので、少し離れて目を凝らしてピントを合わせる。

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4件のコメント

  1. いつも読ませていただいてます!
    寝る直前に読んで目が冴えました笑
    自分が見つけられてないだけかもしれませんけど、オダナナの裏って意外と(?)少ないのでめちゃ嬉しいです笑

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    1. >risco さん
      はじめまして!
      あらあら……寝不足にさせちゃってごめんなさい♡フヒヒ
      確かにオダナナの裏あまりないですよね!と自分も思ったので、今回書かせて頂きました!喜んで頂けたなら光栄です。
      引き続き、宜しくお願いします(^^)

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  2. いつも読ませていただいてます。
    『もう他の男性の躰では満足させないように、彼女を情慾を火だるまにする—-』この一文に痺れました!
    歪んだ深すぎる愛、良いですね。
    それもまたオダナナとスズもんらしいかなと。
    最高な作品をありがとうございます‼

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    1. >sysm さん
      いつもありがとうございます。

      あああ、それはですね。実は、作中ですずもんが音読している文は実在している官能小説から引用しているんですね。とはいえ、丸ごとは流石にマズイのでちょこちょこいじってはいますが。・・・ということで、いずれ自分も痺れるような文が書けるように精進します!

      歪んだ愛が好みでしょうか?実はそのネタも温めてあります!いつかは出しますので、その時はぜひ、悶えてくださいませ♪
      ありがとうございます、そう言っていただけるなんて光栄です!

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