「夜景、見たい?」
織田が提案してきた。店を出た頃にはすっかり暗くなっていた。
「えっ、夜景」
「ちょっと寒いけど行く?」
本音はすぐに戻って、行為に及びたかった。
「行きたい」
しかし、先ほどの失態を取り返したい気持ちもあった。急かす、はしたない女とは思われたくない。
「じゃあ行こう!」
岳の上に市内が一望できる展望台があるらしかった。ロープウェイで小さくなっていく街を眺めながら昇っていくと、目的地に着いた。降りると、夜景100選に認定されてるだけあって、スケール感の大きい夜景が展開していた。しかし。
冷たい山風がごうごうと吹いており、それはもはや夜景を眺める余裕はないくらいに凍える風だった。冬のデートには不向きすぎる場所で現に、震えたカップルたちが寄り添って温めあっている姿しかなかった。
私も愛おしい人の体温を感じたくて、ぴったりとくっつく。凍える風を浴びながら、一緒に白い息を吐いて、目の前いっぱいに広がる夜景を眺める。温かいはずなのに人肌を感じてキュンと、ときめいた。厚着の服の下は鳥肌でいっぱいだった。
(嗚呼、私は織田からきっと離れられない––––)
カップルのほとんどが寒さに負けて下りていく。私は意地でも帰りたくなかった。
「だにー。ちょっと他のところも行ってみない? 隠れスポットあるかもしれないし」
織田は鼻をすすりながら微笑んだ。私たちは寄り添いながら、ロープウェイ乗り場とは明後日の方向へ足を進めた。
展望台より少し歩くと、森に囲まれた暗い道が続いてるだけだった。いかにも今にも出そうな雰囲気だ。森の夜はひどく恐ろしい。しかし、行こうと提案した手前、引き返すわけにもいかなかった。50、いや、70メートルの間隔で設置されている街灯の明かりを頼りに進んでいく。
暗い道にちょっと羽音がしただけで絶叫をあげる私。織田は恐怖を知らないらしい、平常心のまま進めていく。と、このように格好がつかないまま進んでいると、道を遮るように青い光が差し込んでいた。
覗いてみると、まるで切り絵のような木々のシルエットの向こうに、月明かりに照らされているベンチがあった。そのベンチが望む先には夜景が広がっている。幻想的な光景にうっとりしていると、織田が小説家らしい感想を言った。
「なんか絵本の1ページを見てるみたい」
私は意地でも帰らなかったことを、そして穴場スポットを見つけたことを心の中で自分に褒めた。
クリスマスに相応しい、ロマンチックな雰囲気に胸をときめかせつつ、ベンチに腰掛ける。森に囲まれているお陰で風が当たらず、愛おしい人と寄り添っていれば耐えられる、心地よい寒さであった。
織田が夜景の右のほうを指差して「あそこって今日行ってきたタワーじゃない?」と言っている横で、私の頭の中ではキスしか思い浮かばなかった。
こんなムード溢れるスポットでキスなしでは帰れない。実はキスもあまりしていなかった。
(記念日だし、いいよね?)
決心した私は織田の肩に手を置いて、彼女の薄い唇に唇を重ねる。久しい感触に私はたまらなくなり、外ではするべきではないようなキスを投げる。
「ちょっと、舌入れるなよー」
ムードの欠片もなく、ケラケラ笑っている織田の言葉を遮るようにまた唇を重ねる。すると、織田も応えるように口を開いてきた。すかさず舌を潜り込ませる。織田が舌を絡めてきた。吸ったり、甘噛みしたりして味と感触を愉しむ。
(だにーとキスしてる……)
私は変に感極まって、涙を流していた。
「なになに? どした?」
素っ頓狂な声で訊いてくる織田に、もっと温まりたいと言わんばかりにしがみついた。薬草の残り香が織田から漂っている。
「戻りたい」
「そうね、寒いから温まろうか」
温まろうかの言葉に期待して、思わず鼻から白い息を出してしまった。
今日のデートを振り返ると、自分が思春期男子並みに発情しまくりで情けなくなるが、発情した生き物に雄雌は関係ないのではなかろうか、とも思った。まして性欲が強く、男性とセックスしたあとも織田を材料に自慰行為している私なら尚更だ。
(女だって男以上に発情する生き物なんだから!)
織田と手を繋いだまま徒歩で山を下りると、温泉街はすっかり人の気配は消えて森閑としていた。
旅館までにはあと5分くらいで着く計算だ。いっそう足を速める。白い息を止めどめなく洩らしながら帰路につく様は、まるで過酷な冬の中で慎重に餌を狙う猛獣のようだ。
やっと旅館に戻って来た。無言のまま部屋に入ると、既に布団が敷かれていた。いよいよ、だ。
いつも読ませていただいてます!
寝る直前に読んで目が冴えました笑
自分が見つけられてないだけかもしれませんけど、オダナナの裏って意外と(?)少ないのでめちゃ嬉しいです笑
>risco さん
はじめまして!
あらあら……寝不足にさせちゃってごめんなさい♡フヒヒ
確かにオダナナの裏あまりないですよね!と自分も思ったので、今回書かせて頂きました!喜んで頂けたなら光栄です。
引き続き、宜しくお願いします(^^)
いつも読ませていただいてます。
『もう他の男性の躰では満足させないように、彼女を情慾を火だるまにする—-』この一文に痺れました!
歪んだ深すぎる愛、良いですね。
それもまたオダナナとスズもんらしいかなと。
最高な作品をありがとうございます‼
>sysm さん
いつもありがとうございます。
あああ、それはですね。実は、作中ですずもんが音読している文は実在している官能小説から引用しているんですね。とはいえ、丸ごとは流石にマズイのでちょこちょこいじってはいますが。・・・ということで、いずれ自分も痺れるような文が書けるように精進します!
歪んだ愛が好みでしょうか?実はそのネタも温めてあります!いつかは出しますので、その時はぜひ、悶えてくださいませ♪
ありがとうございます、そう言っていただけるなんて光栄です!